「SAKE で世界を驚かせたい」

—夢を閉ざしてきた扉が、いま開かれようとしている

あなたがもし、日本酒をつくる夢を持っていたとしたら—「免許が新しく出ないから」という理由だけで、その夢が閉ざされることを想像できますか？

この現実を、長い間、多くの人が静かに受け入れてきました。
日本酒製造免許。
これがなければ、たとえどれだけ情熱があっても、どれほど新しい発想があっても、日本酒は造れません。
そしてその免許は、酒蔵の移転などを除いて、原則として新規発行が認められていないのです。

しかしいま、長年閉ざされてきたその扉に、小さな風が吹き始めました。
政府が、規制の見直しを検討し始めたのです。

なぜこのタイミングなのか？
それは”世界”が動き始めたからでした。

「地元の米と水で、日本酒を造りたい」
「世界に届ける新しい SAKE を、自分の手で生み出したい」

そんな想いを持つ若い醸造家や起業家が、ここ数年、増えています。
けれど彼らの前には、見えない壁がありました。
それが「日本酒製造免許」という制度です。

これは単なる”申請書”の話ではありません。
酒税法により、国内向けの日本酒製造免許は「需給の均衡を維持する必要がある」として、事実上の新規発行停止状態。
税収維持という観点から、既存の市場を守る構造ができあがっていたのです。

まるで、どんなに美しい旋律が頭に浮かんでも、楽器が渡されない作曲家のように。
情熱はあっても、表現の手段が許されない—そんな矛盾が、日本の酒造業界にはありました。

ただし、2020 年の酒税法改正により、輸出向けに限っては免許の新規発行が認められるようになりました。

一方で、外からは追い風が吹いています。
「SAKE」という言葉は、今や英語圏でも通じるブランドになりつつあります。

フランスのミシュラン星付きレストラン、アメリカの高級バー、シンガポールのラグジュアリーホテル—そこに置かれているのは、かつて地方の蔵元でひっそりと作られていた日本酒です。

なぜ、SAKE は世界に受け入れられているのでしょうか？

それは、味わいの奥深さと、ストーリー性です。
ワインと同じように、米、水、そして気候や蔵人の哲学によって、一本一本がまったく異なる表情を見せる。
それが、グローバルな感性に強く響いているのです。

日本酒は、いまや「地域文化を味わうアート」として、世界で注目されています。
そして 2024 年12月には、日本酒などの「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録され、さらなる追い風となっています。

そうした中、政府もついに重い腰を上げました。

国家戦略特区ワーキンググループが規制緩和の検討に着手し、関係省庁や事業者などから意見を聴取しています。
海外市場での成功や地方創生に寄与する事業者に対し、限定的に免許を与える方向で進んでいます。

この変化は「規制の緩和」という一言で片付けられるものではありません。

それは、伝統と革新の両方を尊重する、新しい日本酒文化の始まりを意味しているのです。

実際、日本酒の国内販売量は 2022 年度に約40万キロリットルと、1975 年度の4分の1以下まで減少しており、酒蔵もピーク時の半数以下の 1500 程度に減っています。
しかし、海外での需要は増加傾向にあり、新たな活路が見えてきています。

思い出してください。
かつて日本酒も、僧侶や農民、町人の手から生まれました。
特別な資格を持った人だけのものではありませんでした。

現代の酒造りも、もっと自由であっていい。
固定化された構造の中にとどまるのではなく、新しい風を呼び込むための場であってほしい。

ビールは 1994 年の酒税法改正で小規模生産が解禁され、各地の「クラフトビール」が人気となりました。
ワインやどぶろくも構造改革特区制度の活用で地域を限定した新規参入が容易になった前例があります。

たとえば—
北海道の雪解け水で仕込む、透明感のある SAKE
沖縄の黒麹文化と融合した、南国の香りの日本酒
海外の料理に合わせた、まったく新しいコンセプトの酒

それらを生み出すのは、これからの世代の蔵人たちです。

扉は、ほんの少ししか開いていないかもしれません。
けれど、夢を追う人にとって、その一歩は限りない希望です。

「SAKE を、世界へ」
そんな言葉が、ただの夢想ではなく、実際の未来になろうとしています。

新しい免許が、新しい人を迎え入れ、新しい酒が、新しい物語を紡ぎ、そして、新しい日本が、そこから始まる。

いま、日本酒の未来が、静かに、確かに動き始めています。