その一杯に、誰かの想いがこめられていたら──
たとえば、あなたが日本酒を片手に友達と笑い合っているとき。
その手の中にある瓶が、実は「アート作品」だったとしたら、ちょっと驚きませんか?
栓を開ける音が、まるで舞台の幕が開くように。
味わうたびに、そのお酒が語りかけてくるストーリーがある。そんな体験を届けようとしているのが、いま静かに注目を集めている「350×(カケル)プロジェクト」です。
日本酒がキャンバスになる瞬間
このプロジェクトを手がけるのは、創業 350 年を迎えた玉乃光酒造株式会社。
第2弾となる今回のテーマはずばり「仲間」。
6名のアーティストとタッグを組み「日本酒をアートとして表現する」という前代未聞の挑戦に取り組んでいます。
プロジェクト名にある「350」は、同社の創業 350 年を意味しています。
つまり「350年の歴史に、どれだけの物語を重ねられるか」という問いかけなのです。
白い瓶に宿る「仲間」のかたち
今回の作品では、それぞれのアーティストが「仲間」をテーマに、自分だけの解釈を 720ml の日本酒とパッケージに込めています。
たとえば「好きなもの」をコンセプトに作品を手がける日本の若手アーティスト・Colorful U-go さんは「左目の達磨」をモチーフに、夢を追い続ける過程の美しさを表現しました。
また、韓国出身のイラストレーター・PORA さんは、「水」から始まる物語として、韓国と日本をつなぐ海の上を飛ぶツバメを描き、幸運と良い知らせを運ぶ象徴を込めています。
香港を拠点に活動する anothermountainman(Stanley Wong)さんは「heaven in earth」をテーマに、見る者の心と意識を映し出す鏡のような作品を生み出しました。
アーティストたちは単なる「パッケージデザイン」を超え、日本酒そのものの香りや味わいと響き合うような表現を目指しています。
それはまさに、白い瓶に詩や絵を注ぐような試みです。
日本酒を「体験」に変える力
このプロジェクトがユニークなのは、ただ美味しい日本酒をつくるだけでなく、それを通じて「人と人とのつながり」を体感させようとしている点です。
誰かと一緒に飲むとき、そのお酒が語る物語が会話のきっかけになるかもしれない。
アーティストの思いを知ったうえで味わうことで、その一杯がより深く、心に残るものになるかもしれない。
「飲む」ことが「読む」ことや「観る」ことと同じような芸術体験になる──そんな世界がすぐそこにあるのです。
シリーズ2では、製造メンバー全員が主体的に関わりながら酒造りを進め、アルコール度数を 13% と低めに設定しつつ、香り豊かで旨味もしっかり感じられるお酒を目指して完成しました。
未来の乾杯に込められた願い
最後に、こんなシーンを思い浮かべてください。
仲間と久しぶりに集まる週末の夜。食卓の真ん中に置かれた 720ml の瓶。
それぞれ違うデザイン、同じ味わい、でも根底にある想いはひとつ──「仲間と共に味わってほしい」というメッセージ。
「350×(カケル)プロジェクト」が私たちに教えてくれるのは、日本酒がただの飲み物ではなく、心を交わす”メディア”にもなり得るということ。
そして、350 年の歴史を持つ瓶の中に込められた大きな想いは、私たちの心をそっとあたためてくれるのです。
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