—石川県・能登に灯った、新たな物語
冷たい風が頬をなでる早春の能登。
海の音と、土の匂い。
そして、静かに立ち上る蒸留香—。
その一杯には、誰かの願いや記憶が、まるで琥珀のように封じ込められているのかもしれません。
2025年、冬の地震から立ち上がる能登の地に、ひとつの小さな希望が芽吹きました。
それが『能登浄溜所』という名の、再生の象徴です。
「酒づくり」は、土地を”語る”ということ
能登浄溜所を手がけるのは、NOTO Naorai 株式会社。
彼らの挑戦は、単なる酒づくりにとどまりません。
それはまるで「土地の記憶を蒸留し、未来へ手渡す」ような仕事です。
この地に根差した素材、地元の清らかな水、そして、土地とともに生きる人たちの手仕事。
それらすべてが溶け合って生まれる一杯は、ただの浄酎ではなく”物語”を持つ酒。
能登の風土をまるごと瓶に詰めたような、静かで奥行きのある味わい—まるで、耳を澄ませば波の音が聞こえてきそうな、そんな一杯です。
震災の傷跡と、それでも前を向く決意
能登半島地震。家が、暮らしが、そして多くの人々の心が傷つきました。
その後「のと Beyond 復興ファンド」の第一号案件として採択され、2025年4月12日に開所される能登浄溜所には、強い意志が込められています。
「終わってしまった」のではなく「ここから、また始めよう」という、静かな決意。
NOTO Naorai のメンバーたちは、復興支援に携わりながら、並行して酒づくりの準備を進めてきました。
石川県鹿島郡中能登町の鳥屋酒造株式会社に併設されたこの場所を「失われたものを嘆く場」ではなく「未来を醸す場所」にするために。
「飲む」という体験が、誰かの希望になる
能登浄溜所の浄酎 -JOCHU- は、ただ酔うための酒ではありません。
それは、口にした瞬間、どこか懐かしい景色を想起させるような、記憶と感情を刺激する体験です。
たとえば、友人と交わす乾杯の一言。
「これ、能登で作られたお酒なんだよ」
その言葉ひとつで、能登という土地の物語が、ぽつりと語られ始める。
一杯のお酒が、遠く離れた誰かにとっての”ふるさと”になるかもしれません。
終わりに:酒は、人の心を醸すもの
酒とは、本来、人と人をつなぐもの。
祝いの場でも、悲しみの中でも、いつもそっと寄り添ってきた存在です。
だからこそ、能登浄溜所の挑戦は、単なる地方ビジネスではなく”文化”をつくる仕事なのです。
過去と未来、失ったものとこれから生まれるもの、そのすべてを繋いでいく一杯。
もしあなたがこの先、どこかで能登の浄酎 -JOCHU- に出会ったら。
どうかその味の奥に、ひとつの風景を感じてみてください。
静かに、でもたしかに続いていく、再生と継承の物語を。
能登の祭りで使用される燈籠「キリコ」をモチーフにしたシンボルマークが照らす、明るい未来の光を。
コメント