再び息づく酒蔵「伊豆本店」復活の物語
「古いものは、もう時代に合わない」と言われることがあります。
けれど、果たしてそうでしょうか?
時代を越えて受け継がれるものには、消えない”本物の価値”があるのです。
忘れられかけた酒蔵に、再び火が灯るとき
福岡・久山町にある久原本家グループをご存じでしょうか?
「茅乃舎だし」など、自然の恵みを活かした調味料で知られるこの企業が、いま新たな挑戦を始めています。
その舞台は、なんと創業から300年以上の歴史を持つ福岡県宗像市の酒蔵「伊豆本店」。
長らく酒造りを休止していたこの酒蔵が、2026年1月、新たな命を吹き込まれ「新生 伊豆本店」として生まれ変わるのです。
「老舗の再興」と聞くと、どこか硬くて堅苦しい話に感じるかもしれません。
でも、これは単なる企業買収や施設リニューアルではありません。
そこに流れているのは、人の想いと、土地に根づいた”物語”なのです。
なぜ久原本家が「酒蔵の再興」に挑むのか?
久原本家は、もともと”だし”や”調味料”の分野で評価を受けてきた企業です。
そんな同社がなぜ、酒蔵というまったく異なる分野へ足を踏み入れたのでしょうか?
その背景には、共通する信念があります。
「日本の食文化には、土地の風土が生きている」
「手間ひまを惜しまないことが、味を育てる」
お酒も、だしも、発酵食品も、実はすべて”自然の力”と”人の手仕事”が織りなす文化遺産です。
久原本家は、酒づくりを「食の根幹を成す営みのひとつ」と捉え、そこに真剣に向き合おうとしているのです。
そして何より、伊豆本店は久原本家グループ社主である河邉氏の母方の実家にあたり「茅乃舎」ブランド誕生のきっかけとなった場所でもあります。
伊豆本店の持つ歴史と伝統を継承したいという想いが、今回の再興プロジェクトの原動力となっています。
「新生 伊豆本店」は何を目指すのか?
2026年1月7日にオープン予定の「新生 伊豆本店」は、単なる酒蔵の再スタートではありません。
そこには、3つの大きな目標が込められています。
地域とともに生きる酒蔵へ
かつての伊豆本店は、地元の人々にとって誇りであり、集いの場でもありました。
その精神を受け継ぎながら、これからの伊豆本店もまた、地域の文化や暮らしと共鳴する場所を目指します。
世界遺産「神宿る島」宗像・沖ノ島と関連遺産群を有する宗像の地で、観光や食のイベントを通じて、地域に息づく伝統や季節の恵みを体験できるような空間づくりを進めていく予定です。
酒づくりの「未来」を考える
300年の伝統を受け継ぎながらも、伊豆本店は「未来の酒づくり」にも目を向けています。
新銘柄『宗像』では、北海道・上川大雪酒造から招聘した杜氏・若山健一郎氏のもと、伝統技術と最新設備を融合させた酒造りを行います。
山田錦・夢一献・寿限無といった福岡県産の酒米を使用し、地元の水で醸す、地域と共に歩む日本酒を目指しています。
心に残る「体験」を届ける
酒を「飲むもの」から「体験するもの」へ。
伊豆本店では、”魅せる酒蔵”をコンセプトに、酒造りの工程を間近に見られる醸造蔵の見学スペース、槽搾り製法の木箱の遺構を活用した酒蔵BAR、試飲や購入ができる直売所、歴史展示、酒粕を使用した甘味など、5つのエリアを新設します。
訪れた人の心に残る時間を提供するこの場所は、まるで”香りの記憶”のように、五感で楽しむ日本酒との新しい出会いになるはずです。
300年の時間が語りかけてくるもの
歴史を重ねた建物には、ふとした瞬間に「時間の重み」を感じることがあります。
茅葺きの建屋や煉瓦造りの煙突、蔵に差し込む光。
そのすべてが、過ぎた日々と、これからの日々を静かに繋いでいるのです。
「新生 伊豆本店」は、そんな場所になるでしょう。
ここで紡がれる酒の一滴一滴は、単なるアルコールではなく、人の想いと土地の記憶が宿った”文化の結晶”です。
また、戦後に姿を消した幻の酒米「亀の尾」を七年かけて復活させた純米酒「亀の尾」も、伝統と挑戦の象徴として引き続き製造を継続します。
「本物」を未来へ。あなたとともに
伊豆本店の復活は、ただの企業ニュースではありません。
それは「本物を大切にする生き方」が、今もこれからも選ばれることを教えてくれる、小さな希望の物語です。
便利さと効率が優先される時代にあっても、人の手が育てる味や、土地に根差した営みの価値が見直されつつあります。
もしかしたら、あなたのふるさとにも、眠っている”宝物”があるかもしれません。
伊豆本店の再興は、それに気づくきっかけになるかもしれません。
おわりに
300年以上前から続いてきた小さな酒蔵が、いま、あらたな一歩を踏み出そうとしています。
それは「過去を懐かしむ」ための再興ではなく「未来へつなぐ」ための挑戦。
2026年、福岡・宗像の地で生まれ変わる伊豆本店を、ぜひその目で、舌で、心で、味わってみてください。
一滴の酒に、300年の物語を。
あなたの五感で、その物語に触れてみませんか?
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