「日本酒って、どうして海外で人気なの?」
そんな素朴な疑問から、今回のお話は始まります。
最近「日本酒を凍らせて海外に届ける」というユニークな試みが始まりました。
まるで春の朝に吹き込む風のように、新しくて、でもどこか懐かしさを感じさせるニュースです。
このプロジェクトの主役は、株式会社 TOMIN SAKE COMPANY。
時代の変化に柔軟に対応し「冷凍」という革新的な方法で”しぼりたて”の味わいを世界に届けようとしているのです。
「生酒」って何が特別なの?
日本酒にはさまざまな種類がありますが「生酒(なまざけ)」は一度も加熱処理されていない、いわば”できたてホヤホヤ”のお酒。
口に含むと、まるでお米がまだ歌っているかのような、フレッシュでみずみずしい味わいが特徴です。
でもこの「生酒」、とてもデリケート。
温度変化に弱く、長距離輸送には向かないとされてきました。
だからこそ、これまで海外でこの味を楽しめる機会はほとんどなかったのです。
そこに登場したのが「凍眠」という魔法
TOMIN SAKE COMPANY が取り組んだのは、株式会社テクニカンの液体凍結機「凍眠」を活用し、しぼりたての生酒をマイナス 30℃ の不凍液ですぐに冷凍し、フレッシュなまま海外へ届けるという試み。
これにより、味と香りを損なうことなく、日本の酒蔵で感じられるあの「できたての感動」を、遠く離れた国の人々にも味わってもらえるようになりました。
冷凍されたまま運ばれ、現地で自然解凍することで、飲む瞬間に”日本の旬”がよみがえる—まるでタイムカプセルを開けるような体験です。
溶け始めから完全に溶けきるまで、温度の上昇や空気に触れ、時間の経過とともに変化する香りや味わいを楽しめるのが特徴です。
海外第一歩は、シンガポール
そして、この冷凍生酒が 2024年10月のシンガポールでの食品見本市をきっかけに、Fishmart SAKURAYA からのリクエストを受け、2025年3月11日に「凍眠生酒」8銘柄、計 400本がシンガポールに出荷されました。
大変好評で翌々週に再注文を受け、本格的に出荷していくことが決まりました。
実際、現地では日本食専門店などでの取り扱いが始まり、日本酒に馴染みのない人々も新しい味わいに驚きを隠せなかったそう。
小さな企業が、世界の”乾杯”を変えていく
このプロジェクトの根底にあるのは「世界中どこでも、酒蔵に行って飲める新鮮な搾りたての日本酒を味わえたら!」という強い想い。
テクノロジーと伝統のかけ算で、日本酒の可能性をぐんと広げてくれる挑戦です。
国内でも 2021年2月からECサイトを中心に販売されていた冷凍「凍眠」生酒は、帝国ホテルのECサイト「ANoTHER IMPERIAL HOTEL」やイオンリテール株式会社の冷凍食品専門店「@フローズン」でも取り扱いが始まり、急速に流通を拡大しています。
さいごに:一杯の酒がつなぐ、国境を越えたぬくもり
「凍眠」された生酒は、冷たくても、どこかあたたかい。
それは、技術で守られた”味”だけでなく、日本の酒文化を届けたいという造り手の”心”までもが一緒に運ばれているからかもしれません。
「初めて飲む一口目が美味しい事がすごく大切」という思いを胸に、日本酒に関わる方々の想いの詰まった一本を大切に提供し続けていくという、TOMIN SAKE COMPANY の代表取締役 前川達郎氏の言葉が印象的です。
次に日本酒を手に取るとき、ふとこのストーリーを思い出してみてください。
もしかしたら、その一杯が誰かの遠い夢と、静かに、でも確かにつながっているのかもしれません。
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