AMAZON でお買物

地域の宝を未来へ――日本酒「いすゞ美人」復活の物語

宮崎県美郷町で、かつて人々に愛されていた日本酒「いすゞ美人」が半世紀ぶりに復活します。
この挑戦は、単なる酒造りの再開ではありません。町に息づく文化を守り、未来へとつなぐ壮大なプロジェクトです。
そこには、地域の誇りを取り戻そうとする人々の情熱がありました。

消えた日本酒「いすゞ美人」

美郷町宇納間にある甲斐酒店。
かつてここで造られていた日本酒「いすゞ美人」は、1968年まで地域の人々に親しまれていました。
しかし、時代の移り変わりとともに酒造りは途絶え、幻の酒となってしまいました。

そんな中、地域の宝物を再び世に送り出そうと2022年に立ち上げられたのが「幻の酒復活プロジェクト」です。
このプロジェクトには美郷町の自治体や地元企業、そして学術機関が協力し、産学官で委員会が結成され、長い歳月を経て消えてしまった伝統の味を蘇らせるための取り組みが進められています。

復活への第一歩となったのは、当時使われていた原料米「瑞豊(ずいほう)」の再栽培でした。
この米は地元の気候と土壌に最適化された品種であり、「いすゞ美人」の風味を決定づける重要な要素です。
同時に、甲斐酒店で長い間眠っていた酵母も採取され、地元の人々の記憶に刻まれた日本酒の復活に向けた準備が整いました。

復活までの険しい道のり

復活プロジェクトが始まった当初は、半世紀もの間途絶えていた酒造りを再開するという挑戦に、関係者たちは不安と期待を抱えていました。
特に「瑞豊」の再栽培は、土壌や気候に適応させるために多くの試行錯誤が必要でした。

地元農家が協力し、一粒一粒を丁寧に育てた「瑞豊」は、ようやく収穫を迎えることができました。
この米こそが、過去と未来をつなぐ架け橋となります。

一方、失われた酵母の採取も簡単な作業ではありませんでした。
長い年月を経て眠り続けていた酵母を蘇らせるには、専門的な分析と慎重な管理が必要でした。
その過程はまるで宝探しのような工程であり、少しずつ希望の光が見えてきたのです。

初仕込み――復活の瞬間

2025年1月8日、ついに「いすゞ美人」の初仕込みが行われました。
場所は延岡市の千徳酒造。この日を迎えるまでの道のりは決して平坦ではありませんでしたが、ついに歴史的な瞬間が訪れたのです。

甲斐酒店の5代目の妻である甲斐文代さんをはじめ、プロジェクトメンバーたちは仕込みの様子を見守りました。
作業が始まると、酒蔵の中には米の蒸しあがる香ばしい香りが立ち込め、緊張感の中にも期待感が漂います。

「酒母(しゅぼ)づくり」と呼ばれるこの工程は、酒造りの基礎となる重要な段階です。
今回の仕込みには当時と同じ「瑞豊」米38キロと、甲斐酒店の井戸水42リットルが使用されました。
水や麹、それに酵母が入ったタンクに蒸して冷ました米が入れられました。

甲斐文代さんは感慨深げにその様子を見つめながら、こう語りました。
「早く飲みたいです。楽しみにしています、出来上がるのをですね。どんなのができるんだろうと思って」

また、千徳酒造の杜氏である門田賢士社長も、プロジェクトに込められた多くの人々の思いを受け止め、こう話しました。
「お米も今までなったお米を再現してということで、たくさんの方の思いがすごく入っている。だから、思いをしっかり受け止めて、おいしいお酒を造っていきたいと思っております」

「いすゞ美人」に込められた地域の願い

初仕込みを終えた「いすゞ美人」は、今後は甲斐酒店の酒蔵から採取された酵母が加えられ、これから3回の仕込み工程を経て、来月中旬に完成する予定です。
そして完成した日本酒は、2月20日に開催される「宇納間地蔵大祭」でお披露目され、販売も行われる予定です。
この祭りは地域の人々にとって大切な行事であり「いすゞ美人」の復活を祝う格好の場となるでしょう。

日本酒の完成は、単なる地元のイベントにとどまりません。
長年失われていた伝統が蘇り、新たな観光資源としても注目されています。「いすゞ美人」が地域の活性化にどのように寄与するのか、これからの展開に期待が高まります。

未来へ――伝統と誇りを繋ぐ架け橋

「いすゞ美人」の復活は、地域の歴史や文化を次の世代に引き継ぐ大きな意義を持っています。
このプロジェクトに携わる人々の情熱と努力が、地域の誇りを再び輝かせ、新たな未来を切り開いていくのです。

かつて消えた日本酒が、50年の時を超え、再び多くの人々に喜びと感動を届ける日が近づいています。
「いすゞ美人」の味わいを楽しむその日を、心待ちにしましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました