あの夜、私は“森を飲んだ”。
部屋の灯りを落とし、グラスにそっと注いだ日本酒から立ちのぼるのは、バニラのような甘みと、凛とした杉の香り。
それはまるで、静寂な森のロッジで過ごす夜のような、深みと包容力を湛えています。
「これ、本当に日本酒なの……?」
そう思った瞬間、ふと気づきました。香りが、感情の奥の扉をノックしていたのです。
そんな“香りで飲ませる日本酒”──それが、2025 年11月21日に発売されたGekkeikan Studio no.6(ゲッケイカン スタジオ・ナンバーシックス)です。
「Gekkeikan Studio」とは?──400 年の蔵元が見据える、未来の一杯
「Gekkeikan Studio」は、日本酒の老舗・月桂冠が展開している“問いから始まる”実験的プロジェクトです。
通常の酒造りであれば、完成された味のゴールを目指して進むのが一般的です。
しかし、このスタジオのアプローチは真逆であり、最初にあるのは「問い」なのです。
「日本酒って、もっと自由でいいんじゃない?」
「お客様も開発メンバーの一員として、プロセスを共有できないか?」
そうやって、あえて試作段階のものを世に問い、フィードバックを次につなげる。
それはまるでアート作品を創り上げる工房(スタジオ)のような酒造りであり、月桂冠の“挑戦する意思”そのものと言えるでしょう。
no.6 のテーマは「調和」。ウイスキーのような、日本酒の誕生
「Gekkeikan Studio no.6」が今回挑んだテーマは「木材と日本酒の香りの調和」です。
目指したのは、ウイスキーのような重厚な雰囲気を持ちながらも、日本酒らしいキレを感じられる「超辛口のネオ樽酒」でした。
開発チームは、桜や栗、水楢など数十パターンの木材との相性を検証。
その結果たどり着いたのが「アメリカンホワイトオーク」と「国産杉」という異色の組み合わせです。
しかも、単に木に浸けるだけではありません。
樽の内側を直火で焦がす「チャーリング」という技法を採用しました。
これにより、オーク由来のバニラやカラメルのような甘い芳香を引き出しつつ、杉の清々しさを重ねることに成功したのです。
口にふくむたびに表情が変わる──時間は、味わいのスパイス
このお酒の一番の驚きは、なんといっても時間軸で変化する香りのグラデーションと、ベースにあるお酒のスペックにあります。
まず口に含んだ瞬間は、チャーリングされたオーク樽由来のまろやかな甘みが広がります。
続いて鼻腔を抜けていくのは、杉ならではのシャープで清々しい森の香り。
そして最後に訪れるのは、驚くほど鋭い「キレ」です。
実はこのお酒のベースには、月桂冠の技術の粋を集めた「糖質ゼロの超辛口日本酒」が使われています。
だからこそ、甘い香りを纏いながらも、後味は研ぎ澄まされた日本刀のように潔い。
甘美な香りとドライな喉越しのコントラストが、多層的な体験を生み出します。
どんなときに、誰と飲む?
「no.6」は、飲み方によっても表情を変える、大人のための日本酒です。
たとえば夜、ゆったりと過ごしたい時には「ぬる燗」で。
温めることで木の甘い香りが一層立ち上がり、癒やしの時間を演出します。
あるいは、氷を浮かべた「ロック」で。
冷やすことで透明感と木の輪郭が際立ち、シャープな旨味を楽しめます。
ラベルデザインにも遊び心が溢れています。
正面には「木」のイラストを配し、背面はまるで研究所の試験管に貼られた管理シールのよう。
わずか 700 本の限定生産という希少性も含め、お酒好きへのサプライズギフトとしても最適です。
これは、未来の日本酒かもしれない
月桂冠は、この「Gekkeikan Studio」を通じて、単に“変わった酒”を作っているわけではありません。
彼らが見つめているのは「これからの日本酒文化」そのものです。
分子レベルで香りの調和を計算し、糖質ゼロという機能性と、樽酒という伝統を掛け合わせる。
そんな自由で創造的な日本酒の未来を、彼らは本気で描こうとしているのです。
“香りは、記憶を連れてくる”
香りには、不思議な力があります。
幼い頃の家の匂い、旅先のロッジの空気、憧れた洋酒の香り──。
no.6 は、そんな記憶のスイッチのような日本酒です。
オークと杉の香りが心をほどき、思いがけない感情が立ちのぼる。
「味わう」のではなく「感じる」ための一杯。
次の休みの日、あなただけの“森の時間”を楽しんでみませんか?
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