それは、ある静かな山あいの町から始まった物語
長野県辰野町――地図を開かなければ、知らない人のほうが多いかもしれません。
春は桜、夏はホタル、秋は紅葉、冬は雪。
派手さはないけれど、季節の美しさが息づく場所です。
この町の一角で、10人にも満たない酒造りの職人たちが、黙々と酒を仕込み続けています。
その酒の名前は「夜明け前」。
そして 2025 年、その酒が海を越え、イタリア・ミラノで世界の頂点に立ちました。
ミラノで起きた、静かな”革命”
「ミラノ酒チャレンジ 2025」は、イタリア最大級の日本酒コンテスト。
ワインの国イタリアで日本酒を評価するという一風変わった大会ですが、その分、評価基準はとてもシビア。
香り、味わい、食との相性、そして「欧州で愛されるか」という視点で審査されます。
そんな中、200 銘柄を超える大吟醸酒の中から、たったひとつ“最高賞・マニフィカ賞”に選ばれたのが、小野酒造店の《夜明け前 大吟醸》でした。
その味わいは「まるで朝露のよう」と評されました。
ほんのりと果実が香り、口に含めば透き通るような清らかさが広がる――まさに、信州の山あいの朝のような一杯。
「小さいこと」は、強さになる
小野酒造店は大手でもなく、派手な広告もありません。
けれど、その分、すべての工程に”目が届く”酒造りをしています。
酒米は全量、酒造好適米。
水は霧訪山の清らかな井戸水。
手洗いで米を研ぎ、発酵の具合を毎日五感で確かめ、一本一本をまるで子どものように育てていく。
その姿は、まるで手紙を書くような丁寧さ。
大量生産では決して届かない「心」が、一本一本に込められています。
名前に込められた、ひとつの願い
「夜明け前」という名前には”まだ暗いけれど、必ず朝が来る”という願いが込められています。
コロナ禍、自然災害、さまざまな困難の中でも、淡々と酒を造り続けてきた小さな酒蔵。
その姿は、私たちが忘れかけていた「静かだけれど強い希望」を思い出させてくれるようです。
きらびやかな都会の真ん中で、ひときわ静かに輝いた、日本の酒。
それは、ただの受賞ではなく、
世界が「日本の小さな手仕事」を見つけてくれた瞬間だったのかもしれません。
一度、その一杯を、朝露のように味わってみてください。
信州の山の奥で始まった物語が、あなたの心にも、そっと光を灯してくれるかもしれません。
 
  
  
  
  
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