「今の時代に、あえて酒蔵を立ち上げるなんて、なぜ?」
そんな問いに、ある小さな町が静かに、けれど確かな声で答えを返しました。
新潟・柏崎からはじまる、新しい酒づくりの物語
新潟県柏崎市。
日本海を望み、豊かな自然とともに生きるこの町に、新たな酒蔵が誕生しました。
その名も「弥栄醸造(いやさかじょうぞう)」。
2024年8月に設立され、2026年1月からいよいよ自社での醸造を開始する予定です。
「弥栄(いやさか)」とは、古語で「ますます栄えること」を意味する言葉。
造り手だけでなく、原料をつくる農家や届ける酒販店、それを飲む人や地域に関わるすべての人の暮らしが、それぞれのかたちで豊かになっていく。
そんな願いが、この名前には込められています。
そしてもう一つ、この酒蔵には他とは違う、ある「こだわり」があります。
それは「米麹100%」という、実に潔い酒づくり。
水と米だけで仕込まれる日本酒の世界においても、通常は原料米の約20%程度を麹にし、残りを蒸米として使います。
しかし弥栄醸造はあえて、蒸し米を一切使わず、すべて米麹だけで醸す「十割麹酒」に挑戦しているのです。
なぜ今、十割麹酒なのか?
「十割」と聞いて、そばを思い浮かべる人も多いかもしれません。
小麦粉などのつなぎを使わない、純粋なそばの香りと味を楽しめる十割そば。
その潔さと同じように、十割麹酒もまた、素材そのものの魅力を最大限に引き出す、まっすぐな酒なのです。
弥栄醸造がこのスタイルにこだわる理由は、味や風味だけではありません。
麹を100%使うことで生まれる味わいは、酸味・甘味・旨味のバランスが際立ち、濃厚かつ個性的。
麹には自然の酵素の力で旨みを引き出す働きがあり、その麹だけでつくる酒は、体にもやさしく、発酵食品としての健康効果も期待されているのです。
酒税法上は「日本酒」ではなく「その他の醸造酒」として分類されますが、それでもなお、地域の気候風土や日本の技術を活かしてつくられるこのお酒には、確かな独自性と自由な可能性があります。
弥栄醸造は制度的な制約を逆手にとり、麹を主役に据えることで、日本古来の発酵文化を見つめ直し、次の世代へとつなげていく。
そんな「文化を醸す」挑戦でもあるのです。
覚悟を込めた一献「ITTEKI」
この挑戦を形にしているのは、代表の坂本一浩氏です。
神奈川県横浜市出身の坂本氏は、大学卒業後、菊正宗酒造で営業職を経験し、日本酒ベンチャー「未来酒店」では副店長・店長として複数店舗の立ち上げと運営を担ってきました。
2021年9月からは新潟県柏崎市の阿部酒造で研修生として酒造りを学び、2024年には阿部酒造の設備を借りた委託醸造酒の販売を開始。
そして2026年冬、いよいよ自らの蔵で自らの酒を造る段階に至りました。
展開していくお酒のブランド名は「ITTEKI(一擲)」。
この名前は、四字熟語「乾坤一擲(けんこんいってき)」に由来します。
「天地の運をかけた一投」、すなわち人生を賭けた大勝負を意味する言葉です。
「この言葉は、成人式の折に恩師から贈られた色紙に記されていたもので、以降、人生の節目でたびたびその言葉に背中を押されてきた」と坂本氏は語ります。
語る声はやさしく、でもその奥には、確かな決意が感じられました。
人口数十人の山あいの集落で
弥栄醸造の舞台となる「宮之下」は、柏崎市の山あいにある人口数十人ほどの集落です。
高齢化が進み、耕作放棄地や空き家が増える中、坂本氏はこの地に移住し古民家をリノベーションして蔵を立ち上げました。
ここでの酒造りは、単なる酒造業ではなく、地域の営みとつながる「村づくり」としての酒蔵運営。外から人が来て、地元の人が笑顔で語らう。
そんな風景を酒を軸に再構築することが、弥栄醸造の本質的な目標です。
酒蔵を単なる製造拠点にとどめず、農業・食・観光・文化など多様な領域を結びなおす「文化の交差点」としての役割を担っていく。それが、弥栄醸造の描く未来です。
小さな酒蔵の挑戦を、あなたの力で支えてほしい
新しい酒蔵を立ち上げるには、大きな覚悟と資金が必要です。
そこで弥栄醸造は、2026年1月23日から、クラウドファンディングをスタートします。
今回のプロジェクトでは、酒蔵内に併設する「直売所兼テイスティングバー」の整備費用を募ります。
完成後は、地域の方々と来訪者が自然と交わり語らう、酒を中心とした交流の場として活用する予定です。
本プロジェクトは単なる建物整備にとどまらず、地域と人、文化と営みを結ぶ「酒のある風景づくり」の第一歩となります。
リターンには、完成した十割麹酒の先行試飲セットや、オリジナルグラス、限定ラベルボトルなど、心躍るラインナップが揃っています。
最後に:酒は、想いを運ぶメッセージ
酒は単なる嗜好品ではありません。
祝いの席にも、別れの夜にも、人生の節目にはいつも、静かに寄り添ってくれる存在です。
そんな酒を「食卓の一杯」から「地域の文化」へと昇華させようとしているのが、弥栄醸造の挑戦です。
まだ名も知られていない、小さな酒蔵かもしれません。
けれど、そこに込められた想いは、驚くほど大きく、そして温かい。
あなたの一口が、その未来を育てていきます。
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