「日本酒に、物語を感じたことはありますか？」
ある日の晩、ふと立ち寄った小さな居酒屋で、私は一杯の日本酒と出会いました。
盃を口に運んだ瞬間、口いっぱいに広がったのは「味」だけではありません。
そこには、静かに語りかけてくるような、何か奥深い”物語”があったのです。
そして今、その感覚を呼び覚ますような新たな日本酒ブランドが誕生しました。
その名も『火男（ひょっとこ）』。
この酒には、ただの味わい以上の”意味”が込められています。
「火男（ひょっとこ）」とは？
―面（おもて）の奥に潜む、日本酒の新しい表情
『火男』とは、古くから日本の祭りや民俗芸能で親しまれてきた「ひょっとこ面」から着想を得た日本酒ブランドです。
おどけた表情でおなじみの「ひょっとこ」ですが、その仮面の奥には、”火”を扱う神聖な存在としてのルーツがあることをご存じでしょうか？
そう、火男は「火を操る者」。
つまり『火男』という酒は、祭りで火を操る男の面を象った存在として、滑稽さと不思議な力を併せ持ち、飲む人の心に新しい驚きと熱を与える日本酒として表現されているのです。
このブランドを手がけたのは、東京都中野区に本社を構える株式会社柴田屋ホールディングスの傘下である「株式会社柴田屋酒店」。
彼らは、広島県の柄酒造と共同開発し、2025 年11月にこの新しい日本酒を発売しました。
なぜ”物語”が日本酒に必要なのか？
日本酒というと「辛口」「甘口」「吟醸」などの味わいや製法が注目されがちです。
しかし、『火男』はそこに“物語性”という新しい軸を加えました。
柄酒造を代表する「於多福（おたふく）」の世界観を壊すことなく新しい挑戦を形にしたいと考え、対となる存在として選ばれたのが「火男」です。
お多福と火男は夫婦や一対の縁起物として扱われることも多く、日本文化の象徴的な組み合わせです。
日本酒を国内外に広める際、海外の人々にとっても興味を引くアイコンになると考えられました。
柄酒造の代表銘柄「於多福」が持つ柔らかな福の象徴に対し『火男（ひょっとこ）』は火のような個性と奥行きを宿し、面の奥に潜む物語性と味の深みを表現しています。
二つの個性が織りなす新しい日本酒
『火男』シリーズとして発売されたのは、二つの異なる個性を持つ日本酒です。
それぞれに独自のテーマと感情が込められています。
『火男 面（おもて）の蜜』は、柄酒造が挑戦した「貴醸酒を仕込む」という新たな試みから生まれました。
従来の熟成を前提とした濃厚なスタイルではなく、仕込みからすぐに楽しめる”ライトな貴醸酒”を目指した NEO 貴醸酒です。
アルコール度数も14度と低めに設計され、さらりと軽やかな甘みを持つ革新的な一杯となっています。
貴醸酒でありながら、驚くほど軽やかで上品な甘み。
濃厚さではなく、さらりとした甘さが特徴で、食中酒としても楽しめる新しい甘み系日本酒として、貴醸酒ビギナー層にも入りやすい味設計となっています。
『火男 瀬戸の面（おもて）』は、ALL 広島仕込みの純米酒です。
酵母・米・水すべてが広島産で、広島・賀茂鶴発祥の「協会5号酵母」を採用しています。
通常はあまり使われない酵母をあえて選び”広島らしさ”を追求した一本です。
瀬戸の風土を映す、フレッシュでみずみずしい味わいが楽しめます。
広島の伝統を受け継ぐ柄酒造
『火男』を醸造する柄酒造は、嘉永元年（1848 年）創業の老舗酒蔵で、広島県東広島市安芸津町に位置しています。
代表銘柄「於多福」をはじめ、広島杜氏の古里である安芸津の地で 170 年以上にわたり酒造りを続けてきました。
広島は「吟醸酒発祥の地」として知られ、柄酒造もまたその伝統を受け継ぎ、軟水を活かした繊細な酒造りを行っています。
酒米には千本錦や八反錦など広島県産米を 100％ 使用し、少量仕込みにこだわることで、管理の行き届いた高品質な酒を生み出しています。
2018 年の西日本豪雨では蔵が甚大な被害を受けましたが、全国からの支援を受けて復旧を果たし、現在は新設備を整えながら挑戦的な酒造りを続けています。
『火男』が届けたいもの—それは、面の奥に潜む物語
日本酒は、もともと人と人をつなぎ、場の空気をやわらかくする力を持っています。
そこに「物語」という灯をともすことで、もっと心に残る体験になる。
『火男』は、それを本気で実現しようとしているブランドです。
たとえば、あなたが疲れて帰ってきた夜。
机の上にある一杯の『火男』が、まるで「よく頑張ったね」と語りかけてくれる。
そんな温もりを感じる瞬間が、日常の中にそっと生まれるのです。
最後に｜物語を味わうという、新しい選択肢
あなたが次に日本酒を選ぶとき「味」だけでなく「物語」で選んでみませんか？
『火男』は、あなたの心にそっと火を灯し、そして語りかけてくれることでしょう。
たとえ日々の喧騒に疲れていても、この酒を手に取ることで「自分を取り戻せる瞬間」が訪れるかもしれません。
物語を、味わおう。
火男とともに、面の奥に潜む物語を感じてみてください。
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