ある朝、あなたがスマートスピーカーに「今日の天気は?」と話しかける。
数秒後、晴れの予報が返ってくる。
それだけのこと。
でも、その裏側には、私たちが想像するよりずっと複雑で”まだ未完成”なやり取りが隠れています。
AIが人のように話す時代になった今、それでもAIたちは、互いに「通じない」言語を使っていることが多いのです。
まるで、異国の旅先で、身振り手振りだけでなんとか会話しようとしているようなもの。
そんな中、Google が「AIの共通言語」を受け入れるというニュースは、大きな転換点を迎えたと言えるでしょう。
2025 年4月9日、Google は Anthropic のAI接続規格を採用すると発表しました。
これは OpenAI が数週間前に同じ規格を採用すると表明した後の動きです。
「AIが道具を使う」ってどういうこと?
今回 Google が採用を表明したのは、Anthropic 社が提唱する「Model Context Protocol(MCP)」という共通仕様。
これは簡単に言えば、AIが外の世界とつながり、自分で道具を使えるようになるための”文法”や”ルールブック”です。
人間でたとえるなら、赤ちゃんが「お箸の使い方」を覚えるようなもの。
最初はぎこちなくても、正しい使い方を身につければ、自分で好きなものを選び、食べ、味わえるようになります。
同じように、AIも「MCP」のルールを学ぶことで、自分でビジネスツールやソフトウェアなどのデータソースにアクセスし、情報を取得し、タスクを完了することができるようになるのです。
なぜ Google がこのルールを受け入れるのか?
AIの世界は今、どの企業も自社独自の仕様で「道具の使い方」を定義しており、開発者はそれぞれに対応する必要がありました。
Google DeepMind CEO の Demis Hassabis は、Xへのポストでこのように述べています:
「MCP は良いプロトコルであり、AIエージェント時代のオープンスタンダードとして急速に普及しています。MCP チームや業界の他のプレイヤーとともに、さらに発展させていくことを楽しみにしています。」
Google は、Gemini モデルと SDK に MCP サポートを追加すると発表しましたが、具体的な時期については明らかにしていません。
そのメリットは、計り知れません。
- 開発のスピードが一気に加速する
これまで一社ごとにバラバラだった”道具の作り方”が統一されれば、開発者は同じ規格で複数のAIに対応でき、労力が大きく減ります。 - AI同士が協力しやすくなる
共通言語を持てば、将来的には「Google のAIと他社のAIが一緒にプロジェクトを進める」なんてことも可能になります。 - ユーザーが受ける恩恵が広がる
ユーザーとしても、AIがより正確に、リアルタイムで情報を扱えるようになることで「ちょっと聞いただけで、すぐに正確な答えが返ってくる」体験が増えるでしょう。
AIは”図書館司書”から”旅する冒険家”へ
これまでのAIは、あらかじめ与えられた情報の中から答えを探す「図書館司書」のような存在でした。
知識は豊富だけど、世界の外に出ることはできなかった。
けれど今、AIは地図を持ち、コンパスを手にした”冒険家”になろうとしています。
目の前の質問にただ答えるのではなく、自ら足を使ってデータの森に分け入り、最適な答えを探し出す存在に変わっていくのです。
そして Google の今回の選択は、その冒険の道しるべを立てたようなもの。
Anthropic が MCP をオープンソース化して以来、Block、Apollo、Replit、Codeium、Sourcegraph などの企業がすでに自社プラットフォームに MCP サポートを追加しています。
私たちとAIの距離が、またひとつ近づく
技術の進歩と聞くと、少し遠い話に感じるかもしれません。
でも、こうした動きの積み重ねが、「知りたい」と思った瞬間に「わかった」と言える世界を作ってくれます。
MCP は開発者が「MCP サーバー」を通じてデータを公開し、アプリやワークフローなどの「MCP クライアント」を構築して、それらのサーバーにコマンドで接続できるようにします。
これにより、チャットボットなどのAIを活用したアプリケーションとデータソースの間に双方向の接続が可能になります。
これからのAIは、ただの質問箱ではなく、私たちの言葉を理解し、行動し、応えてくれる”相棒”になっていくでしょう。
そしてその第一歩が「みんなで同じ言葉を話すこと」から始まるのです。
最後にひとこと
AIは、もう黙って座っているだけの存在ではありません。
今、その手に道具を持ち、世界を歩き出そうとしています。
Google が差し出したのは、そのための共通語という”旅のガイドブック”。
これからどんな未来が描かれていくのか、私たち一人ひとりが、その物語の登場人物になっていくのです。
参考:Google says it’ll embrace Anthropic’s standard for connecting AI models to data
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