大型言語モデル(LLMs)は、出力の説明性や高度な思考力によって注目を集める一方で、情報の正確性や鮮度に関しては依然として多くの課題を抱えています。
その最大の問題の一つが「ハルシネーション(factual hallucination)」と呼ばれる、誤った事実を生成してしまう現象です。
これを解決するために、外部データを活用する「検索補助型生成(Retrieval-Augmented Generation, RAG)」というアプローチが登場しました。
しかし、RAG にも課題があり、不要な情報を検索してしまうことや、複雑な問題を適切に分解できずに非効率な検索を行ってしまうことが指摘されています。
このような問題を克服するために開発されたのが「DeepRAG」です。
DeepRAG は「retrieval narrative(検索ナラティブ)」と「atomic decisions(原子的決定)」という2つの重要なコンポーネントを導入し、マルコフ決定プロセス(MDP)としてモデル化することで、より正確で効率的な情報取得を実現します。
この手法により、回答の正確性を 21.99% 向上させながら、検索効率も改善することに成功しています。
DeepRAG の革新的なアプローチ
DeepRAG の中核となるのは、検索ナラティブと原子的決定という2つのコンポーネントです。
検索ナラティブは、構造化された適応的な検索フローを確保し、以前に取得した情報に基づいて次のサブクエリを生成します。
これにより、問題を段階的に分解し、より効率的な検索を実現することが可能になります。
一方、原子的決定は、各サブクエリに対して外部知識の検索が必要か、モデルの内部知識で十分かを動的に判断します。
この機能により、検索の必要性を適切に評価し、不要な検索を防止することができます。
評価と実証された効果
DeepRAG の有効性は、複数のオープンドメインQAデータセットを用いて実証されています。
評価には、HotpotQA、2WikiMultihopQA、PopQA(マルチホップ型の事実確認QA)、CAG(時間に依存するQA)、WebQuestions(異種知識ベースQA)が使用されました。
これらの包括的な評価を通じて、DeepRAG は回答の正確性を 21.99% 向上させただけでなく、検索効率も大幅に改善しました。
さらに、モデルは知識の境界をより正確に認識し、より効果的な検索判断を行えるようになりました。
技術的特徴と実装
DeepRAG は、問題の分解、原子的決定、最終回答の生成をマルコフ決定プロセス(MDP)としてモデル化しています。
この手法により、検索の必要性を動的に判断し、最適なタイミングで検索を実行することが可能になりました。
また、不要な情報を排除しながら、より正確な回答を導き出すことができます。
このような革新的なアプローチにより、従来の RAG システムが抱えていた課題を効果的に解決しています。
おわりに
DeepRAG は、LLMs の検索能力を根本から改善し、より高精度で効率的な情報検索を実現する革新的な技術です。
検索のコストを抑えながら出力の質を向上させることで、さまざまな応用分野での活用が期待されています。
特に複雑な質問応答や時間依存型の問題解決において、その効果を発揮することが実証されており、今後のAI技術の発展に大きく貢献することが期待されています。
DeepRAG の登場により、LLMs の実用的な応用がさらに広がり、より信頼性の高い情報処理システムの実現に向けて大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。
参考:DeepRAG: Thinking to Retrieval Step by Step for Large Language Models
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