緑内障と診断の課題
緑内障は世界的な視覚障害の主要因の一つであり、早期発見が特に重要です。
しかし、従来の診断方法では医師の経験や主観に大きく依存し、誤診のリスクが課題となっていました。
この問題に対し、近年は機械学習(ML)と光干渉断層計(OCT)を組み合わせた新しい診断手法が登場し、特に「説明可能な人工知能(XAI)」を採用したモデルが注目されています。
XAI は、AIの判断プロセスを可視化し、人間にとって理解しやすい形で説明する技術であり、診断の信頼性向上に貢献します。
XAIを活用した診断モデルの開発
本研究では、334例の正常眼と268例の緑内障眼(早期86例、中期72例、進行期110例)を対象に、XAI を用いた緑内障診断ツールを開発し、OCT画像データによる機械学習モデルの訓練を実施しました。
特に SHAP(SHapley Additive exPlanations)を用いることで、モデルの診断における重要要素を明確化しました。
分析の結果、視神経乳頭の対称性(RNFL Symmetry)、網膜神経線維層(RNFL)の厚さ、網膜神経節細胞層(GC-IPL)の変化が診断の重要因子であることが判明し、これらの情報を基に緑内障の進行度を正確に判別できるようになりました。
診断基準の可視化とその効果
部分依存プロット(PDA)を用いて「正常」「異常」の判定基準となる数値範囲を可視化しました。
例えば、RNFL 厚が 88.13μm 以下の場合、緑内障の可能性が高いことが明らかになりました。
これにより、医師は具体的な数値に基づいて診断を行えるようになり、従来よりも明確な診断基準を持つことが可能となりました。
XAI を活用した診断ツールの開発
本研究では、Excel ベースのツールと Web アプリケーションの2つの診断ツールを開発しました。
はじめに、医師が数値を入力するだけで緑内障の可能性を判定できる Excel ベースの簡易診断ツールを作成しました。
さらに、AIがリアルタイムで診断結果を提供し、SHAP 分析によって診断根拠を可視化できる Web アプリケーションも開発しました。
これにより、医師と患者の双方が診断プロセスを理解しやすくなり、診断の透明性が著しく向上しました。
AIと医師の診断精度の比較
AIの診断精度は早期緑内障で AUC 0.96(95% CI: 0.95-0.98)、中期緑内障で AUC 0.98(95% CI: 0.96-1.00)、進行期緑内障で AUC 1.00(95% CI: 1.00-1.00)を示し、眼科医の平均精度 80.5% を上回りました。
特に早期緑内障の診断において、AIは医師より 10.4-11.2% 高い精度を達成しました。
この結果は、AIが微細な変化を確実に検出できることを示し、医師の診断補助ツールとしての有用性を裏付けています。
今後の展望と課題
本研究により、XAI の活用がAI診断の透明性を向上させ、医師の補助ツールとしての実用性を高めることが実証されました。
今後は、様々な OCT 機器に対応可能な汎用モデルの開発や、AI診断結果を患者にもわかりやすく提示するユーザーインターフェースの改善が必要とされます。
これらの進展により、XAI を活用した診断の普及が進み、緑内障の早期発見を支援する技術のさらなる発展が期待されます。
参考:OCT-based diagnosis of glaucoma and glaucoma stages using explainable machine learning
コメント