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チェスのように先を読むAI誕生。『潜在空間』で推論を重ねる新手法が示す驚きの成果

AI

進化するAI:パラメータ数の拡大だけでは限界がある

近年、AIの発展は目覚ましく、大規模な言語モデルが私たちの生活に浸透してきました。
しかし、より高度な推論を可能にするには、単にモデルのサイズを大きくするだけでは不十分です。
人間が問題を解決するように「考える時間を増やす」ことができれば、より深い理解が可能になるかもしれません。

そこで登場したのが「潜在空間での再帰的な推論」という新たなアプローチです。
この技術により、AIは自らの推論を洗練させ、複雑な問題に対してより的確な解答を導き出せるようになります。

AIが「考える」仕組みとは?

従来の言語モデルは、与えられた入力に対して一度きりの処理で回答を生成するのが一般的でした。
しかし、人間の思考を振り返ると、私たちは一つの問題に対して何度も考え直したり、仮説を立て直したりしながら結論に至ります。

新しいアプローチでは、AIが「潜在空間」と呼ばれる内部の情報処理領域で、再帰的に思考を深める仕組みを持ちます。
これは、チェスを指すときに先の展開を何手も読むようなプロセスに似ています。

この仕組みを可能にするのが「再帰ブロック(recurrent block)」です。通常のAIは情報を処理するとすぐに次のステップへ進みますが、再帰ブロックを持つモデルは必要に応じて複数回の内部計算を行い、より洗練された回答を出せるようになります。
この再帰プロセスは、初期状態に依存せず安定した結果を生み出すよう設計されています。

実際にどのような効果があるのか?

研究では、3.5B(35億)パラメータを持つモデルを約800億トークンのデータで学習しました。
このモデルは、プレリュードとヘッドに15億、コア再帰ブロックに15億、入力埋め込みに5億のパラメータを持ちます。
テスト時に異なる計算回数を適用することで性能向上を確認しました。

例えば、数学の問題を解く場合、簡単な計算には最小限の計算ステップで答えを出し、複雑な問題にはより多くの反復計算を行うことで、正確な解答を得られることが分かりました。
GSM8K や ARC Challenge といった推論が重要なタスクでは、同規模の Pythia シリーズなどの従来モデルを上回る精度を示しましたが、より大規模な最新モデル(OLMoなど)と比べると全体的な性能では及びません。

さらに、潜在空間での計算プロセスを分析すると、特定の単語(例えば「wrong」や「3」)に対して、情報が円を描くように回転したり、スライダーのように移動したりする様子が見られました。
これは、モデルが情報を整理しながら、最適な答えを導き出している証拠かもしれません。

実用化されたら、私たちの生活はどう変わる?

この技術が実装されることで、AIはより直感的な推論を行い、従来のモデルでは難しかった複雑な質問にも対応できるようになります。
例えば、

  • AIアシスタントが、会話の文脈をより深く理解し、的確な回答を返せるようになる
  • 医療分野では、症状の組み合わせを考慮しながら診断の精度を向上させる
  • 自動翻訳が、単なる単語の置き換えではなく、意味の流れを理解した訳出を実現する

など、さまざまな分野での活用が期待されます。

未来のAIは「考える深さ」を調整できる

この新しいアプローチは、従来の「パラメータ数の増大」や「トークン数の増加」といった手法とは異なり、より柔軟な推論能力を持たせるものです。
計算資源を最適に活用し、タスクに応じて処理の深さを変えられるAIが実現すれば、より洗練された対話や複雑な問題の解決が可能になるでしょう。

また「考える時間を調整できるAI」は、人間の思考により近づく可能性を秘めています。
将来的にはAIが「いま考えていること」を可視化し、どのようなロジックで結論を導き出したのかを説明できるようになるかもしれません。

今後、この「潜在空間での推論を活用したAI」の研究がどのように進展し、私たちの生活をどのように変えていくのか、大いに注目されます。

参考:Position: It’s Time to Act on the Risk of Efficient Personalized Text Generation

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