「昨年、NFTを一つ購入するのに145ドルのガス代がかかっていたのに、今はわずか0.65ドルで済むんだ！」
こんな会話がイーサリアム（Ethereum）ユーザーの間で交わされるほど、2024年3月13日に実施された「Dencun（デンクン）アップグレード」は劇的な変化をもたらしました。
ガス代が大幅に低下し、これまでコスト面で躊躇していたユーザーや開発者にとって、新たな可能性が開かれています。
本記事では、Dencun アップグレードの仕組みと、それがイーサリアムの未来に与える影響を詳しく解説します。
Dencun アップグレードとは？ 何が変わったのか？
Dencun アップグレードは、イーサリアムのスケーラビリティとコスト効率を向上させるための大規模なネットワーク改善の一環です。
このアップグレードは実行レイヤーでの Cancun アップグレードとコンセンサスレイヤーでの Deneb アップグレードを組み合わせたもので、9つのイーサリアム改善提案（EIP）を導入しました。
主な目標は、イーサリアムのスケーラビリティを向上させ、Layer 2（L2）ネットワークのトランザクションコストを削減することでした。
従来のイーサリアムネットワークは、ブロックサイズの制限やデータ保存の効率性の問題から、高額なガス代が発生していました。
YCharts のデータによると、イーサリアムの平均ガス料金は 2024年の 72 gwei から 2025年3月12日現在ではわずか 2.7 gwei まで下落しています。
ガス代はどのくらい下がったのか？ 驚くべき変化
Dencun アップグレードの影響で、イーサリアムのガス代は1年間で 95% も低下しました。
昨年、平均的なスワップにはユーザーに 86ドルの手数料がかかり、NFT販売の平均ガス代は 145ドルでした。
現在、Etherscan のデータによると、平均的なスワップのコストは 0.39ドル、NFT販売は平均 0.65ドルとなっています。
この変化により、イーサリアムの利用環境は大きく変わりつつあります。
少額決済がこれまでよりもはるかに現実的になり、日常的な取引も負担なく行えるようになりました。
これまでガス代の高さから参入をためらっていた開発者や企業も、新たなビジネスモデルを展開しやすくなっています。
特に、分散型金融（DeFi）や NFT 市場の活性化が期待され、より多くのユースケースが生まれる可能性があります。
ETH 価格は Dencun アップグレード以降 53% 下落
ガス代が大幅に低下したにもかかわらず、イーサー(ETH)の価格はDencunアップグレード以降 53% 下落しています。
2024年3月のアップグレード時には、ETH は 4,070ドル以上で取引されていました。
1年後の 2025年3月13日現在、CoinGecko のデータによれば、ETH は約 1,891ドル前後で評価されています。
Dencun がもたらす未来の可能性
ガス代の削減は、単なるコスト面のメリットにとどまりません。
このアップグレードにより、以下のような変化が起こると考えられています。
- DeFi 市場の拡大 –
従来のイーサリアムでは、スワップやレンディングなどの DeFi 取引に高額なガス代がかかることが大きな障壁でした。
しかし、ガス代が下がったことで、ユーザーがより気軽に DeFi を活用できるようになり、市場全体の流動性が高まることが予想されます。 - NFTとゲーム産業の進化 –
これまで NFT の売買には 145ドルものガス代がかかることがあり、特に少額取引ではコスト負担が大きすぎました。
しかし、今後はより小規模な取引が活発になり、NFT ゲームやデジタルアート市場の新たな成長が見込まれます。 - マイクロペイメントの普及 –
ガス代の削減により、従来はコストが見合わなかったマイクロペイメント（少額決済）の実用化が現実的になりました。
例えば、コンテンツクリエイターが記事や動画に対して少額で課金できる仕組みが、より広く普及するかもしれません。 - 開発者の新たな挑戦 –
コスト面の制約が緩和されたことで、より多くの開発者が新しい DApp（分散型アプリケーション）の開発に挑戦できるようになります。
これまで高額なガス代の影響で実現が難しかったサービスも、今後は次々と市場に登場するでしょう。
今後の課題とリスク
もちろん、Dencun アップグレードがもたらす変化は良いことばかりではありません。
ハイブリッドレイヤー2「Build on Bitcoin (BOB)」の共同創設者である Dominik Harz 氏は Cointelegraph に対し、イーサリアムは最近「期待通りのパフォーマンスを発揮していない」と述べています。
「月曜日の価格下落により、トランプ選挙以降の DeFi TVL（Total Value Locked）の上昇分がすべて消えました。Solana のミームコインの熱狂とイーサリアムの分裂した数ヶ月の間で、業界は DeFi のための新しく、より持続可能で安全なフロンティアを探していることは明らかです。」
また、次期メジャーアップグレードである「Pectra」も課題に直面しています。
3月5日、Pectra は最終テストネット Sepolia 上でロールアウトされましたが、チームはエラーメッセージと空のブロックが採掘されているのを確認しました。
イーサリアム開発者の Marius van der Wijden 氏は修正が導入されたことを確認しましたが、後に未知のユーザーが同じエラーを引き起こし、さらなる問題が発生しました。
開発チームはそれ以降、テストネットを安定化させ、トランザクションの処理に成功しています。
Harz 氏によれば、これらのテストネットの問題は「メインネットの立ち上げを妨げている」ものの、イーサリアムの最大の問題からは程遠いとしています。
同氏は、Pectra が稼働するとレイヤー2向けのデータスペースが2倍になり、コストが削減され、実行能力が向上すると述べています。
「それは正しい方向への一歩ですが、現実にはイーサリアムはビルダーにとっての第一選択肢としての地位を急速に失いつつあり、Pectra はその深い問題の万能薬的解決策ではありません」と Harz 氏は述べています。
まとめ：Dencun アップグレードで広がるイーサリアムの未来
Dencun アップグレードは、イーサリアムにとって歴史的な転換点となりました。
ガス代の大幅な低下により、個人ユーザー、開発者、企業のすべてに新たなチャンスが生まれています。
しかし、ETH 価格の下落やメインネットのアップグレードに関する課題も存在し、業界内での競争も激化しています。
とはいえ、この新時代が本当に持続可能なものになるかどうかは、今後の技術的な進展と市場の動向次第です。
私たちは今、イーサリアムの進化の最前線に立っています。この革命的な変化をどのように活用するかは、私たち次第なのです。
参考：Ethereum average gas fees drop 95% one year after the Dencun upgrade
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