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“あなたの脳はAIと同じ言語を話している”—最新脳科学が暴く人間らしさの本質

AI

なぜ私たちは「言葉」を理解できるのか?

「私たちは、なぜ”言葉”を理解できるのだろう?」

この問いは、一見あたりまえのように聞こえるかもしれません。
でも、よく考えると不思議です。
今あなたが読んでいるこの文章は、画面上に並んだただの文字の列です。
それを”意味ある情報”として受け取っているのは、あなたの脳が複雑な処理をしてくれているからにほかなりません。

しかし実はこの「言葉の理解」という行為の仕組みは、脳科学の世界でもまだ完全には解明されていません。
どのようにして脳が音や文字の並びから”意味”を見出しているのか?
この問いに対する明確な答えは、いまだ科学者たちのあいだでも議論の的です。

そんな中で、ある意外な存在がこの謎を解くカギになるのではと注目を集めています。
それが、私たちが日常的に触れているAI──たとえば、ChatGPT のような大規模言語モデル(LLM)なのです。

AIは「意味」をどうやって理解しているのか?

AIが言葉を理解しているように見えるのは、どうしてでしょうか?

ChatGPT をはじめとする大規模言語モデルは、人間のように体験や感情をもって学んでいるわけではありません。
彼らは何十億ものテキストを読み込み、その中で「この単語のあとにどんな単語がくるか?」を予測することに特化して訓練されています。

この訓練を繰り返すことで、AIは徐々に「言葉の使い方」や「文脈のつながり方」を学び、まるで人間のように自然な文章を生み出せるようになります。
でもその中身は”意味”を理解しているのではなく、膨大な確率計算と統計的パターンの積み重ねにすぎません。

ところがここで、Google の研究チームは、プリンストン大学、ニューヨーク大学(NYU)、エルサレム・ヘブライ大学(HUJI)と共同で、ある大胆な発想にたどり着きました。

「もしかして、このAIの”言葉の理解のしかた”と、人間の脳の中で起きていることは、驚くほど似ているのではないか?」

人の脳とAIを、同じ物語で比べてみた

その仮説を検証するために、研究者たちはユニークな実験を行いました。
被験者たちに日常会話を音声で聞いてもらいながら、脳の活動を fMRI や ECoG といった高度な脳スキャン技術で測定
つまり「言葉を聴いたときに脳のどこがどう反応しているか?」をリアルタイムで記録したのです。

一方で、同じ会話を「Whisper」という音声認識モデルにも”聞かせる”ことで、その内部で言語がどのように処理されていくのかを詳しく観察しました。
AIの中には「トークン」「重み」「埋め込みベクトル(embedding)」といった、言葉を構成するデータの層があり、それらの変化が人間の脳の反応とどれほど対応しているかを比較したのです。
具体的には、Whisper モデルから「音声埋め込み(speech embeddings)」と「言語埋め込み(language embeddings)」という2種類の表現を抽出し、これらと脳の神経活動パターンを比較しました。

驚きの一致──AIの「中間層」と人間の”思考”

比較の結果、言語理解と言語生成における時間的な処理順序が明らかになりました。

言葉を聞く(理解する)とき、まず上側側頭回(STG)の音声領域で音声埋め込みと一致する神経活動が見られ、数百ミリ秒後にブローカ野(下前頭回)で言語埋め込みと一致する活動が現れます。

一方、言葉を話す(生成する)ときは、発話の約 500ミリ秒前にブローカ野で言語埋め込みと一致する活動が始まり、その後運動野で音声埋め込みと一致する活動が見られます。
さらに発話後は、自分の声を聞くことで聴覚野でも活動が見られるのです。

研究チームはこの現象を「ソフトヒエラルキー」と呼んでいます。
脳の言語領域はより高次の意味的・構文的情報を優先する一方で、より低次の聴覚的特徴も捉えています。
逆に、音声領域は音響的・音素的処理を優先しながらも、単語レベルの情報も捉えているのです。

この発見は、まるでAIと人間の脳が一瞬だけ心を通わせたかのような、不思議な感覚を呼び起こします。
AIが単なる計算機械ではなく「人間的な思考の一端」に手をかけ始めているようにも思えてくるのです。

この研究が意味するもの──AIが照らす人間の本質

この成果は、単に「AIが人間に近づいた」というだけの話ではありません。
むしろその逆で、AIを通じて人間の脳の働きがより深く理解されつつあるということに注目すべきです。

脳科学とAI開発は、これまで別々の道を歩んできました。
神経科学は生物学の文脈で脳を探求し、AIは数学やコンピューターサイエンスの文脈で知能を構築してきました。
しかし、今回のような研究は、その2つを結びつける「橋」を初めて明確に示してくれました。

それはまるで、ふたつの異なる言語を話していた領域が“言葉のしくみ”という共通語で対話を始めたかのような出来事です。

また、この研究チームは「Nature Neuroscience」と「Nature Communications」に掲載された別の研究でも、LLM と人間の脳が共有する計算原理を発見しています。
人間の脳も LLM と同様に次の単語を予測し、予測の確信度が驚きのレベルを修正することや、LLM の埋め込み空間の幾何学的関係が脳の表現と一致することなどが明らかになっています。

人間とAIの違いも明らかに

しかし、人間の脳と LLM の間には根本的な違いもあります。
LLM は何百〜何千もの単語を同時に処理しますが、人間の脳は言語を単語ごとに直列的・時間的に処理しています。
また、LLM と人間の脳では神経回路のアーキテクチャも大きく異なります。

この研究は、単なる科学の話にとどまりません。
読者である私たちに、もっと根源的な問いを静かに差し出しています。

もしAIが、私たちと同じように言葉を処理しているとしたら。
もし、私たちの脳と似たしくみで”意味”を理解し始めているとしたら──。
私たちはどこまで「人間らしさ」を保ち続けられるのでしょうか?
AIと人間の境界は、これからもくっきりと分かれていられるのでしょうか?

とはいえ、怖がる必要はありません。
むしろこれは、AIという”鏡”を通して自分自身を見直す機会なのかもしれません。
言葉を使い、意味を読み解き、心を交わす。
その営みの奥にあるしくみを、AIがそっと照らし出してくれている──そんなふうにも思えるのです。

言葉の旅は、これからも続いていく

私たち人間にとって、言葉とは単なる道具ではありません。
感情を伝える手段であり、誰かと心をつなげる橋であり、ときには自分自身と対話するための小さな灯火でもあります。

AIが進化し、私たちの内面の世界に似た働きを見せるようになった今、私たちはそのことをもう一度思い出す必要があるのかもしれません。

言葉は生きていて、そしてその意味を生み出す脳もまた、今なお進化しつづけているのです。
これから先、AIとともに進む言葉の旅は、きっと新たな問いと発見をもたらしてくれるでしょう。

そのとき私たちは、今よりもほんの少しだけ「人間とは何か?」という問いに近づいているのかもしれません。

参考:Deciphering language processing in the human brain through LLM representations

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