「ねぇ、いま話してたこと…AIが聞いてたらどうする?」
たとえばあなたが、無人の自動運転タクシーに乗っていたとします。
仕事の疲れを癒すために大きく伸びをしたり、友人に電話して何気ない笑い話をしたり、あるいは恋人との喧嘩の余韻で言葉もなく窓の外を見つめたり…。
もしも、その一つひとつの瞬間がすべて”記録され、分析され、AIの学習素材”として使われていたら—。
あなたは、それを「便利」と感じますか?
それとも「ちょっと怖い」と思いますか?
これは、Google の親会社・Alphabet 傘下の自動運転企業「Waymo」がいま進めている、新たな技術の話です。
Waymo の次なる一手:カメラが捉える”人間の本音”
Waymo はこれまで、自動運転車の先端企業として「いかに安全に走行するか」に力を注いできました。
センサーや外部カメラを駆使し、交通ルールや障害物、他の車両の動きを精密に捉える。
その技術力は、今やアメリカの複数の都市で無人タクシーを走らせるほどに成熟しています。
しかし、今 Waymo は、車の”外”ではなく”内側”に目を向けはじめました。
それが「車内カメラの映像データを生成AIの学習に使う」という構想です。
乗客の表情、会話のトーン、動作、空気感—そうした”人間の振る舞い”すべてが、AIの理解力を高めるための貴重な素材になるというのです。
Waymo はこれらのデータを乗客のIDと紐づけて使用する可能性があります。
ただし、新機能ではユーザーがオプトアウト(拒否)できる選択肢が提供される予定です。
この機能はまだ開発中で、リリース時の通知方法などは確定していません。
AIの進化と、広告というもう一つの顔
Waymo の動きが注目されているもう一つの理由は「広告ビジネスへの応用」です。
たとえば、乗客が車内で「最近、肩こりがひどくて…」とつぶやいたとしましょう。
AIはそれを拾い上げ「リラックスできるマッサージ店」の広告を、次の目的地付近で提案するかもしれません。
あるいは、疲れた表情や沈黙を察知して「元気づける音楽のプレイリスト」を表示する。
つまり、車そのものが”移動する広告媒体”へと進化する可能性があるのです。
カメラは、もはや「安全のための目」ではありません。
それは今、私たちの感情や興味、つぶやきまでも読み取る”透明な記者”になろうとしているのです。
便利さの裏にある「問い」
もちろん、これは技術的にはワクワクする話です。
AIが人間の非言語的なサイン(ため息や微笑み、沈黙)まで理解できるようになれば、より”人間らしい対話”や”気配りあるサービス”が実現するでしょう。
でも、こうも言えます。
私たちはどこまで「見られる」ことを許せるのか?
技術は止まりません。
生成AIは、学び続け、理解を深め、より”人間的”になっていきます。
それが可能になるのは、私たちの毎日の瞬間—車内での何気ない時間—が「データ」として提供されているからです。
未来のAIが学ぶのは、あなたの笑顔かもしれない
ふとした瞬間、あなたが浮かべた笑顔。
それが、将来のAIが「人間らしさ」を学ぶヒントになるかもしれません。
その未来を「希望」として受け取るか「監視」として感じるかは、人それぞれです。
でも、今だけは立ち止まって、考えてみてください。
- 車の中という”プライベート空間”は、どこまで「観察されて」よいのか?
- 私たちの感情や声は、どこまで「利用されて」よいのか?
最後に——私たちが選ぶべき未来とは
技術は、いつだって中立です。
問題は、それを誰が、どう使うか。
そして、私たちがどこまで受け入れるか。
Waymo の挑戦は、AIの進化の最前線に立っています。
現在、Waymo はロサンゼルス、サンフランシスコ、フェニックス、オースティンで商業サービスを展開し、週に20万回以上の有料乗車を提供しています。
今後2年間でアトランタ、マイアミ、ワシントン D.C. にも拡大する予定です。
しかし、Waymo は親会社 Alphabet の「other bets(その他の賭け)」部門に含まれ、2024 年には12億ドルの営業損失を記録しました。
このことが、車内広告やAIモデル向けのデータ共有といった新たな収益源を模索する背景にあるのかもしれません。
その先にあるのは、便利でスマートな日常かもしれません。
あるいは、見えない視線がつきまとう日常かもしれません。
だからこそ—
あなたは、どこまで「見られる未来」を選びますか?
参考:Waymo may use interior camera data to train generative AI models, but riders will be able to opt out
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