ある休日、甥っ子が遊びに来て、スマホ片手に「見て見て！」と笑いながら見せてきたのは、猫耳をつけた自分の姿。
──その顔はリアルで、それでいて夢の中のように幻想的。
「これ、何のアプリ？」と聞くと、返ってきたのは「Snapchat だよ」。
何気ない日常が、ワンタップで”物語”に変わる。そんな時代が、静かに始まっていました。
そしていま、Snapchat はこの”魔法のフィルター”にAIという名の翼を与え、企業とユーザーの関係すら塗り替えようとしています。
「レンズを通して世界を見る」──Snapchat の魔法は、もう遊びじゃない
かつてのフィルターは、遊び心で彩られたおまけのような存在でした。
でも今やそれは「未来の広告」とも言うべき進化を遂げています。
2025 年4月8日、Snapchat が新たに導入したのが、Sponsored AI Lenses（スポンサー付きAIレンズ）。
これは、企業が Snap の独自の生成AI技術を活用して、自社のブランドや商品をテーマにしたオリジナルのレンズを作れる新しい広告フォーマット。
つまり、ユーザーがレンズを使うことで、AIが生成したさまざまなシーンに自分を登場させる没入型の体験ができるということです。
ユーザーが自撮りをすると、Snap が顔を分析してAIが生成したシーンに統合し、1つのレンズ内で最大10種類の没入型体験を提供します。
チョコレートの世界に入り込んだり、未来の自分が着ている服を試着したり──想像してみてください。
広告ではなく、一瞬の映画体験をユーザーに届ける。
それがAIレンズなのです。
もう「見せる」時代じゃない。「一緒に遊ぶ」時代だ。
この技術の革新性は、単なるAIではありません。
“広告”がコンテンツとして成立しているという点にあります。
考えてみてください。
YouTube 広告を飛ばすのは日常茶飯事。
でも、Snapchat のレンズは自分から試したくなる。
誰かに見せたくなる。
SNS でシェアしたくなる。
「押し売り」ではなく「参加型の物語」が、自然と心に残るのです。
これは、まるでディズニーランドに招待されるようなもの。
ミッキーの世界に入って遊んでいたら、それが知らぬ間に”ブランド体験”になっていた──そんな仕掛けに似ています。
中小企業にもチャンスはある。必要なのは、テクノロジーより想像力
「過去2年間、私たちは高品質なクリエイティブ制作を迅速かつ効率的に行うために、生成AIテクノロジーを改良してきました」と Snapchat は公式ブログで述べています。
「Sponsored AI Lenses は3Dや VFX デザインの必要性を排除し、AIが生成したテンプレートに置き換えることで、制作期間を短縮できます」
つまりこれは、創造力さえあれば、世界中の若者と出会える舞台が用意されたということ。
すでに Tinder や Uber などのブランドがこの新しい広告フォーマットを利用しています。
Tinder の広告では、ユーザーが「My 2025 Dating Vibe（2025年の私のデートの雰囲気）」というキャプション付きのパーソナライズされた画像を生成でき、Uber のレンズでは感謝祭をテーマにした同様の体験を提供しています。
そのレンズは、従来のレンズよりも高いエンゲージメントを生み出す。
Snap によると、ユーザーは Sponsored AI Lenses に、標準的なレンズと比較してより長い時間エンゲージしており、Uber と Tinder の両方がこの新しいAIクリエイティブフォーマットを使用して平均以上の利用時間を記録したそうです。
ユーザーはレンズを通して新しい自分を表現し、ブランドはレンズを通して新しい顧客と出会う。
それはまるで、顕微鏡でもなく望遠鏡でもない「共感鏡」のような存在。
相手の世界を覗きながら、自分の心の奥にも触れていく──そんな未来的なインターフェースが、もう私たちのポケットにあるのです。
まとめ：これからの広告は、「伝える」から「感じてもらう」へ
あなたがもし、誰かに何かを届けたいと思っているなら──今こそ覚えておくべきことがあります。
「伝える」時代は終わった。
これからは「一緒に感じてもらう」時代。
AIレンズはその先駆けです。
伝えたいものがある人ほど、遊び心を持ち、体験を届ける努力をしなければなりません。
Snapchat はこの新しい広告フォーマットの発表に加え、先月には初の動画生成AIレンズを導入し、2月にはモバイルデバイス向けのAIテキスト-画像研究モデルを発表するなど、生成AIの探求と自社プラットフォームへの統合を積極的に進めています。
Snapchat のレンズが照らしているのは、そんな“共感と物語”のマーケティング未来地図なのかもしれません。
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