AIが生み出した絵画や音楽、小説は誰のものなのか。
著作権はAI自身にあるのか、それとも開発者や利用者のものなのか。
近年、AI技術の急速な進化により、この問題が世界中で議論されています。
しかし、意外にもこの議論は60年近く前から検討されており、米国著作権局(US Copyright Office)は既存の法律で対応可能だとしています。
1965年に示された著作権の基本原則
2025年1月、米国著作権局は「AIに関する著作権問題は、既存の法律で解決可能であり、法改正の必要はない」という立場を表明しました。
この判断の根拠として、1965年に示された重要な見解が挙げられています。
当時の著作権登録官である Abraham Kaminstein は、商用コンピュータ技術の進歩に伴い「コンピュータ支援による人間の著作権について、一律の答えはない」と示唆しました。
この基本的な考え方は、AI技術が飛躍的に進歩した現在でも有効であると著作権局は考えています。
特に重要な点として「完全にAIによって生成されたコンテンツには著作権を認めない」という明確な線引きを示しています。
AI技術の進化と著作権の新たな判断基準
現在の著作権局は、特にAIへの「プロンプト(指示)」に関する重要な判断を示しています。
たとえ詳細な指示を与えたとしても、プロンプトだけでは著作権を主張するための「十分な制御」とはみなされないと結論づけています。
ただし、以下のような場合は著作権が認められる可能性があります:
- 人間が独自の著作物をAIに入力し、その要素が出力結果に明確に残っている場合
- AIが人間の創作プロセスを補助的に支援する場合
- 人間が出力結果に対して実質的な編集や改変を加えた場合
実務上の対応と今後の展望
著作権局によると、すでに数百件のAI関連作品が著作権登録を認められています。
これらは、人間の創作的な貢献が明確に認められるケースです。
審査は案件ごとに行われ、人間の著作者性が認められる部分については著作権が付与されます。
一方で、AI企業の見方も興味深いものです。
例えば、AI企業の Hugging Face は「AIの技術革新は、出力結果の著作権保護への期待によって推進されているわけではない」と指摘しています。
むしろ、AIは人間の創作活動を支援するツールとして位置づけられるべきだとの見解を示しています。
今後の課題:AI時代における著作権保護の在り方
著作権局は、大量のAI生成コンテンツが人間の創作活動を圧倒してしまう可能性について懸念を示しています。
そのため、安易にAI生成物に著作権を認めることは、かえって著作権制度の目的を損なう可能性があると指摘しています。
今後の重要な課題として、以下の点が挙げられています:
- AIの訓練データに使用される著作物の取り扱い
- ライセンスに関する考え方
- 法的責任の所在
この問題は、クリエイターや企業、一般消費者にも大きな影響を及ぼすものです。
米国著作権局の示した基準は、今後のAIと著作権をめぐる議論の重要な指針となるでしょう。
参考:Copyright Office suggests AI copyright debate was settled in 1965
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